Sexual Fastfood

  「いらっしゃいませ。」
 イソジンの香りが口の中に残ったまま、私は目の前の小太りの男に挨拶した。

 「佐織と申します。」
  薄暗い店内の中で、目の前の男は饐えた匂いを放ちながらソファーに大儀そうに腰掛けている。私は目の前の男に挨拶した後、立ち上がって男の膝の上に座った。

 男の顔と私の顔が至近距離に迫っている。
 男の顔をまじまじと見る。汗の玉が張り付いている額、開ききった毛穴、鼻の穴から数本はみ出ている鼻毛。
  如何にも金と異性と美貌には無縁の貧乏たらしい顔。

 「あーあ。変な男に当たったよ。」と私は内心舌打ちした。
 おそらくこいつは延長しないまま規定料金で帰るつもりだろう。
  そう、ここはピンクサロン。金はないけど女性に抜いてもらいたいやつが手早く処理に来る、いわば風俗のファーストフード。
私は、なぜこんなところに裸にエプロンで目の前の男にかしずくのかを考えていた。

 私はホストとブランド品に狂った挙句、借金を返済するために今日からここで日銭を稼いでいた。
  手始めに店長に講習を受け、口開けの客が目の前のこの冴えない男だ。なんてついてないんだろう。
  さらに私を絶望的にさせたことは、目の前の男の口臭だ。息を吐くたびに匂う腐敗した生ごみのような口臭。思わず私は顔をしかめた。
  「佐織ちゃん、今日が初めてなの?」
  「佐織ちゃんの性感帯は?」
  臭い息をさせてじとっと湿った手を私の腰に回しながら目の前の男は私に質問を浴びせかける。
  とっとと早く処理して、次の客に移りたい。
  私は適当な返事をしつつ、目の前の客に口で息をしながら世間話をした。
  世間話をしつつ、目の前の客の右手は、エプロンの上から私の乳房をまさぐりはじめた。やがて、息を荒げながら男の右手が荒々しく私の乳房をもみしだいていた。

 デリカシーのかけらもない愛撫。
  感じるどころか、むしろ痛い位だ。
  こいつ、いままで女と寝たことが無いんじゃないのか?これじゃ女にもてないだろう。

 さっさと勃たせて放出させてやりたい。私は、目の前の男の首に手を回し、男の唇の中に舌を入れた。
  耐え難い口臭に息を止めながら。そして同時に目の前の男の股間をズボンの上から愛撫し始めた。

 この店に入る前は、ただHするだけで大金が手に入れることができる楽な仕事だと私は思っていたが、その認識は間違ってることに気がついた。
  好きでもない男とのSEXがこんなに苦痛なものなんだと。
  そう思いながら愛撫し続けているうちに、だんだん目の前の男の股間が固く膨張し始めた。もう頃合だろう。
  私は男の膝の上からおり、ひざまづいて顔を男の股間に近づけ、男のズボンのジッパーを下ろし、男の膨張したものを出した。

 私の目の前にある目の前の男のもの。
  そんなにまじまじ見るのは今日が初めてだ。
  早速私は男のものを両手で包み、愛撫し始めた。
  私の手にある目の前の男のものは非常に熱く、脈打っていて、まるでハムスターを手で包み込んだような感じだ。
  上目遣いで目の前の男の顔を見た。
  目を閉じて至福の表情に酔いしれる目の前の男。

 私は、この目の前の冴えない男を「可愛い」と少しだけ思った。 そして、私は、目の前の男のものを咥え、裏筋に沿うように舌を這わせた。
  口のなかで、目の前の男のものは凶暴的にふくれあがり、唇からは男の脈を感じていた。
  そして再び、上目遣いで目の前の男の顔を見た。
  至福の表情で酔いしれて、うわ言のように、「うっ、ううっ」と声を抑えて快楽に我慢しきれなくなっている目の前の男。どう見てもサマにならない。
  私は、いま口の中で咥えている目の前の男に、「うげっ」と思いつつも、私が目の前にいる男の快楽を司ってることに気づき、軽い優越感に浸る一方、ちょっといじわるしてみたくなった。

 そして私はストロークをゆるめ、焦らし始めた。
  上目遣いで見上げた目の前の男は、お預けを食らった犬のような瞳で私を見ていた。私に向ける懇願の表情。
  ふと目の前の男がかわいく思えてきた。
  目の前の男が、痺れを切らしかけた表情をするや否や、私は頬の筋肉をすぼめ、吸い付くようにしながら再びストロークを始めた。そして、男のものが再び口の中で膨張するのを感じた。

 店内の音楽がアップテンポに変わった。目の前の男の持ち時間があと5分であることの合図だ。
  私はさらに激しく吸引し、粘りつくように舌を這わせる。
  目の前の男は、両脚に力を入れて、固く目を閉じている。
  さらにストロークした一刹那・・・

 不意に、私の口の中で何かが爆ぜた。
  そして、私の口の中は、何か粘っこく、生臭く、そしていがらっぽい香りに覆われた。
  私は膝立ちになり、目の前の男に満面の笑顔を見せ、そして、口の中のものを飲み干した。
  目の前の男は心底喜んでいた。そして、私にこう言った。
  「佐織ちゃん、すごく良かったよ。次回から指名するからね。」

 私はウーロン茶で口の中をすすぎながら思った。
  これで指名客ゲットだ。ギャラも増えるし、さっさと借金返して早くあがってやる。
  今日の日当は指名客がひとりついたから少なくとも3000円は増えるだろう。
  この調子で、私目当ての客を作りまくって、一刻も早く借金返して上がってやる。
  札束だと思えば、この目の前の男だって可愛く感じる。

 最後に、私は目の前の男に接吻した後に、満面の笑みを浮かべて、目の前の男に深々と挨拶した。
  挨拶するのは、もちろん目の前の男じゃなく、男がこれから私に払うであろうとするお金に向かっていった。
  「ありがとうございました。」


 

 

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